「歴史メシ ハルさんカレー」 福岡在住の歴史作家・浦辺登さんが講演 中村学園創立者・中村ハルさんの伝説のカレー誕生秘話

 学校法人中村学園(福岡市城南区別府5)創立者、中村ハルさん(1884~1971年)が生徒に教えたインドカレーをテーマに、福岡在住の歴史作家・浦辺登さんが6月24日(日)、講演を行いました。会場は福岡市博多区博多駅前1の割烹「博多 魚宴」。女性ら約30人が「ハルさんカレー」を作って味わう催しが開かれ、煮込み時間を利用して浦辺さんが話しました。戦後のバザーで学校設備費を稼ぎ出すほどの人気を博した伝説のカレーは、いかにして誕生したのか――。それでは、講演をお聞きください。

 今回、「歴史メシ」として、「ハルさんカレー」の原点を探りたいと思います。

 この「ハルさんカレー」の原点は、東京・新宿の「中村屋」にあります。その新宿「中村屋」のカレーが、なぜ、福岡に伝わったのか。また、そこに隠れていたエピソードについて、お話をしたいと思います。

 いまや、日本の国民食といわれるものに「カレー」「ラーメン」「ハンバーグ」があります。日本の食生活に、欠かせないメニューです。実は、私は、20年以上も前から九州ラーメン研究会のメンバーです。個人的には、このカレー、ラーメン、ハンバーグにスパゲッティ・ナポリタン、オムライス、冬場であればクリーム・シチューが日替わりで出てくれば、幸せな日々を送ることができます。いわゆる「おこちゃまメニュー」が大好きです。現在、61歳、精神年齢は、自称18歳です。

 毎月、圓應寺(福岡市中央区大手門)で歴史の勉強会を開いておりますが、その際、ラス・ビハリ・ボースというインド人亡命者を福岡の人々がかくまった話をしました。今から100年ほど前のことです。

 なぜ、インドから、日本に逃げてこなければならなかったのか。

 当時のインドは、イギリスの植民地でした。イギリスは、インドの人々が食べる食物の代わりに、お茶、綿、さらには、麻薬の一種・アヘンまで栽培していました。

 お茶は、イギリス人がティー・タイムと称しての楽しみでした。「アメイジング・グレイス」という映画をご存知の方は多いと思います。あの歌は、アフリカの民を奴隷として中南米に送り込んだことを後悔する歌です。イギリス人は、紅茶に砂糖を入れて楽しみましたが、その砂糖栽培に酷使するためにアフリカの奴隷を必要としたのです。イギリス人は、お茶の栽培にインド人、砂糖栽培にアフリカの奴隷を使ったのです。

 さらに、インドでは綿花、コットンの栽培もしていました。コットンは、ヨーロッパで人気の繊維であり、作れば作るだけ売れる商品作物でした。

 挙句の果ては、アヘンです。アヘンをインドで栽培し、中国に売りつけていたのです。「アヘン戦争」という言葉を聞かれたことがあると思います。イギリスは中国からお茶を輸入していましたが、貿易赤字に陥り、アヘンを中国に売りつけたのです。中国の国家予算の30%以上がアヘンの購入代金というときもあったほどです。

 インドはイギリスに搾取されるだけの国でした。インドの人々が、どれほど飢餓に苦しもうと、イギリスには何の関係もないことでした。

 そこで、なんとかイギリスから独立したい、インドの苦しむ人々を救いたいと立ち上がったのが、ビハリ・ボースでした。しかし、そんなボースを、イギリスは指名手配して処刑しようとしたのです。そこで、ボースは助けを求めて日本に逃げたのです。

 そのボースを命がけで守ったのが、ここ福岡出身の人々だったのです。頭山満、杉山茂丸、宮川一貫、内田良平という人たちでした。見事な連係プレーで、ボースを守り抜いたのです。知り合いの新宿「中村屋」の相馬夫妻のアトリエにボースをかくまってもらいました。

 ボースは、中村屋の一人娘の俊子と結婚します。頭山満夫妻が仲人を務めました。ボースは結婚を機に日本に帰化しました。そのお礼に、中村屋にインドカリーを伝えたのです。それが、今も中村屋名物の「インドカリー」です。このインドカリー、当時の物価からみても、相当に値段の張るものでした。しかし、そのおいしさは東京中の評判となり、大人気。中村屋の看板メニューとなったのです。人々はボース、俊子夫妻にかけて、「恋と革命の味」と喝采を送りました。

 この評判を聞きつけたのが、当時、横浜で教員をしていた中村ハルさんでした。初めて、そのインドカリーを食べたとき、あまりの辛さに舌がしびれるほどだったと自伝に書いています。しかし、そのスパイスが絶妙でおいしい。なんとかして、このインドカリーのおいしさの秘密を知りたいと思いました。

 調理法を学ぼうとしましたが、中村屋からは断られました。そこで、一計を案じ、郷土の先輩である頭山満に頼み込んだのです。ボースからすれば命の恩人である頭山満の紹介です。断り切れず、中村ハルさんに、インドカリーの秘伝を伝えたのです。それが、今、福岡に伝わる中村学園の「ハルさんカレー」の原点なのです。

 1947年8月15日、晴れて、インドはイギリスから独立を果たすことができました。ぜひ、今日、この「恋と革命の味」を伝える「ハルさんカレー」を味わっていただきたいと思います。

中村ハルさんの略歴

 明治17年、現在の福岡市早良区西新で農家の次女として誕生。明治35年(17歳)、福岡で教員に。大正9年(35歳)、女学校の家庭科教諭になり、翌年、家庭科教育を本格的に勉強するために横浜へ。高等小学校で教べんを取る一方、高等師範学校や大学の講習会に参加したり、一流のホテルや料亭の調理場に入ったりして、料理法を勉強。この頃、東京・新宿の中村屋のインドカリーに出会い、学ぶ。関東大震災後、神戸に転任し、関西でも一流料理店で料理法を勉強。昭和5年(45歳)、福岡に帰郷し、高等女学校の教員に。昭和20年6月の空襲で校舎がほぼ全焼。戦後、校舎再建のため、中心になって料理バザーを開催。生徒に教えてきた中村屋仕込みのカレーが人気を集め、全体で約20万円もの収益を上げ、校舎新築を実現。退職後の昭和24年(64歳)に中村割烹女学院(現・中村調理製菓専門学校)、昭和29年(69歳)に福岡高等栄養学校(現・中村学園大学)、昭和35年(75歳)には中村学園女子高等学校を開校。バザーなどを通じ、ハルさんカレーは学園内外に知られる。昭和40年(81歳)、勲三等瑞宝章受章。昭和46年、87歳で死去(従四位勲三等宝冠章追叙)。

中村ハルさんの孫、中村調理製菓専門学校(福岡市中央区平尾2)の中村哲校長にご協力いただきました。

 講演当日の「ハルさんカレー」づくりは、福岡・博多の歴史や和の文化を伝えるNPO法人福博相伝の会(福岡市中央区大手門3)が企画。女性らが腕によりをかけた出来上がりはすばらしく、「シンプルで深い味わい」「ハル先生のこだわりが伝わってくる」などの声が上がっていました。以下にレシピをご紹介します。

「ハルさんカレー」レシピ

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