[ぷちレビュー]観劇!! 新作歌舞伎『あらしのよるに』 中村獅童さん&尾上松也さん、絵本世界を古典歌舞伎で熱演🤩 敵同士の友情、信じる力描く極上のエンターテインメント 子供連れ👪生徒たち🎒も感動 11月27日(火)まで上演中

 待ちに待った観劇の日がやってきました。

 福岡市営地下鉄・中洲川端駅を出ると、そこは博多座。歌舞伎俳優の名前を染め抜いたのぼりが並び、透明感のある秋風をはらんでいます。来場者を出迎える「博多座」提灯ちょうちんとともに、芸どころ・博多の風情を醸し出しています。

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 きょうは生徒さんの姿が目立つなぁ。先生に引率されて、列をつくって劇場に入っていきます。小さいお子さん連れの姿もそこかしこに。そう、きょうの演目、新作歌舞伎『あらしのよるに』は、1994年の出版以来、日本中で愛読されている、きむらゆういちさんの同名ベストセラー絵本が原作。だから、生徒さんやお子さんにぜひ観てほしい。絵本や歌舞伎世界のすばらしさを体感してほしい。わかります、その思い。捕食-被食関係の垣根を越え、友情を育むおおかみ山羊やぎをそれぞれ演じる歌舞伎俳優の中村獅童さん、尾上松也さんも記者会見PRイベントなどで同じ思いを繰り返し口にしていました。

 いざ、生徒さんたちに続いて劇場へ。

 外階段を上がり、踊り場にさしかかった時、先日の「お練り」を思い出しました。目と鼻の先の川端通商店街を練り歩いた獅童さんら歌舞伎俳優9人が、締めのあいさつをしたのがこの場所でした。詰めかけたファンらを前に、どの方もユーモアを交えながら演目をPRしましたが、心地よい緊張感のようなものも伝わってきました。初演の京都・南座(2015年)、再演の東京・歌舞伎座(16年)に続く、重要な三演目。台本や演出などあらゆる面でブラッシュアップした「博多座バージョン」としてお披露目するだけに、武者震いに似た感覚なのかなと想像しました。なんだかわたくしも、身の引き締まる感じになってきちゃった。

 階段を上りきったエントランス前には、狼「がぶ」役姿の獅童さんと、山羊「めい」役姿の松也さんのパネルが“鎮座”。わたくしが見ている間にも、数人のマダムたちが入れ代わり立ち代わり二人の間に立ち、記念写真に納まっていました。んもう、満面の笑顔で。

 エントランスに入り、エスカレーターで観劇フロアへ。座席は1階中央部やや後方。左を見やると、舞台から突き出た形の「花道」が見えます。

 ここで、あらすじのおさらいを。

 嵐の夜、狼の「がぶ」(中村獅童)と、山羊の「めい」(尾上松也)はそれぞれ真っ暗闇の小屋で天候の回復を待っていました。狼は山羊が大好物。「食う」「食われる」の関係ですが、相手の姿が見えないため、二匹は互いの正体に気づかず、楽しくおしゃべりして仲良くなります。そして、「あらしのよるに」を合言葉に翌日、また会う約束をします。明るい場所で再会したがぶとめいは、互いの姿を知って驚きます。それでも、いじめられっ子だったがぶは、めいが初めて言ってくれた「友達」という言葉がうれしく、二匹は友情を育みます。一方、がぶの狼仲間の「ぎろ」は、かつて片耳を山羊に食いちぎられた恨みから、めいを襲います。かばったがぶはとらわれの身に。めいは救いだそうとしますが、ぎろに見つかります。そこに、山羊の仲間たちが助けに現れます。争いのさなか、山頂まで逃げるがぶとめい。しかし、ぎろたちに追い詰められて――。

 「ちょん!」

 あ、澄んだ(拍子木)の音が響き始めました。触れますよねぇ、日本人の心の琴線に。ではでは、3時間20分ほど、歌舞伎の世界に思う存分、浸りま~す。

🐺🐐

 ――――――舞台は、新作歌舞伎の斬新さと、古典歌舞伎の伝統が見事に「共存」していました。

 実は、現代の絵本が歌舞伎の演目になったのも、全編にわたって動物役だけが出演するのも、歌舞伎では初めて。さらに、子供にも分かりやすいセリフを使ったり、現代的なセンスの笑いを盛り込んだりと、だれもが楽しめる工夫も凝らされていました。狼仲間の会話中に福岡らしい表現「しゃれとんしゃー」(おしゃれだなぁー)が飛び出したかと思えば、褒美の箱をあけると辛子明太子が収まっていたりと、ご当地ネタもいい感じに盛り込まれ、舞台と客席の間に親密な空気が漂いました。嵐の場面では、実際に風が吹いたりもしましたよ~。

 その一方で、見得みえやだんまり、義太夫など、歌舞伎ならではの妙味も堪能できました。やはり、要所要所に繰り出される見得には引き込まれました。隈取くまどりが施された顔でにらむようなめポーズが決まると、グッとクローズアップされた感覚に陥るから不思議ですよねぇ。ストーリーに関係なく、大勢の登場人物が勢ぞろいし、暗闇の中で無言の探り合いをする「だんまり」は、独特の“地味派手”さに伝統美を感じました。登場人物の心境などを表現する語りの音楽・義太夫は、三味線などの演奏や効果音も含め、場面場面を盛り上げました(獅童さんとのユーモラスなかけあいも楽しかった笑)。長唄や舞も彩りを添えました。

 花道を使った演出も期待の「上」をいきました。特に盛り上がったのは、「がぶ」役の獅童さんと「めい」役の松也さんが一緒に山に向かう場面。舞台を降りて客席通路を歩き回り、果てはおちゃめなやりとりをしながら客席そのもの(!!)を横切る“触れ合い”演出は抱腹絶倒でした。さらには、あのステキ♡な松也さんがチョコンと……(爆笑)。と、気づくと、舞台背景が一新されていました。観客が俳優に目を奪われている間に行われる、いわゆる「居どころがわり」。いやぁ~、やられましたぁ(だまされてうれしい笑)。

 こうした演出・表現を駆使して、絵本世界がファンタジックに再現されました。自然界の定めとしての狼の山羊捕食、狼の内紛、がぶとめいが育む友情、狼ぎろの謀略、試される友情、狼と羊の戦い――。起伏に富んだプロットを進めながら、「絆の大切さ」「信じる強さ」といったメッセージを発しました。

 中村獅童さんは、狼「がぶ」役を全身全霊で演じました。一つの発声、一つの表情からひしひしと伝わってきました。そのこと自体に感動するほどに。見得などの動きもほれぼれするほどのキレでした。

 狼らしい豪快さが持ち味ながらも、鳥のひなを助けるような優しさを持ち、天性の愛きょうと素直さが魅力的ながぶ。しかし、そんな個性ゆえにいじめに遭い、一時は群れを離れて旅に出ていました。その間に、お頭だった父は不可解な死を遂げて――。ぬぐえないコンプレックス、心の奥底に横たわる悲しみ……。背負っているものが大きい主人公を多面的に豊かに表現し、その存在を輝かせました。しゃがれ声を張り上げたかと思うと、照れてクネクネしたり、ユニークな挙動で笑いを誘ったり。<だめ、だめ>と自分に言い聞かせるのに、どうしても「(めいを)食いてぇーなぁー」とつぶやいてしまったり。まさに自在な演技……というか、ご本人がライフワークに位置づけている役だけに、絵本の「がぶ」が“憑依”しているような迫真性がありました。めい(尾上松也)との友情が深まるにつれ、一段、また一段と心を開いていく様子は、言い回しや表情、動作の微妙な変化で表され、そのさりげなさにさすがとうなりました。個人的には、満月の下でめいに、自分の生い立ちを一人語りに告白するシーンが最大の見所でした。美しい舞台に素朴な語り口が響き、言葉の一つひとつが「力」を持っていました。特に、亡き父が残したメッセージ<己を信じ、自分らしく生きろ>は、胸に刺さりました。

 耳に残っているといえば、がぶが語尾につける口癖「~やんす」も。獅童さんが記者会見の折、舞台関係者がつられて普段の会話でも「やんす」を使う、と笑っていたのを思い出しました。ほんと、そうですね。くせになるでやんすよ!、獅童さん(笑)。花道で披露した、最後の決めポーズ「飛び六方ろっぽう」(獣六方!? 狼六方!?)は迫力満点。「天地東西南北」の六方向にエネルギーがほとばしっていました。最高にカッコよかったです♡

 ナイーブながら一途で意思が強い山羊の「めい」役を演じた尾上松也さんも、花形役者の風格を見せました。

 印象深かったのは、独特の言い回し。相手の反応を探るような、少しのみこむようなしゃべり方で中性的な声色を響かせ、めいの世界観が耳からも伝わってきました。白い衣裳に包まれた立ち姿の美しさには、女方として数々の舞台を踏んできた貫禄がにじみました。スキップしたり走ったりする際の軽やかな身のこなしは、舞台に浮遊感や清涼感をもたらし、ファンタジー性も体現していました。個人的な見所は、狼のがぶ(中村獅童)との交流を仲間に告白するシーン。友情を大切にする気持ちはもちろん、仲間への思いも感じられ、胸を打たれました。これを境に、物語はクライマックスに向かって加速するだけに、全体の中でもキーになる場面でした。さらに、最終盤の友情を試されるシーン。ここに来て、おそらく劇中で最も感情をむき出しにしました。効きました。信じることの強さ、尊さを肌で感じました。

 ところで、<めいはオス? メス?>という疑問が頭の片隅にあった、という方もいらっしゃるのでは。この点については、松也さんが記者会見で述べているように、観る人が自由に解釈していいようです。わたくしは<乙女心を持った男子>派(笑)です。会見で話題になった、手の演技にも注目しました。松也さんいわく、「ひづめの型」。歌舞伎のきつねの手の型をもとに、指全体を少し前に出して山羊のひづめをかたどっています。いやもうほんと、「ぽかった」です(ほかの山羊役の役者さんと見比べてもみました)。「指がつることもある」とのことでしたが、松也さん、大丈夫でしたか?

 獅童さんも松也さんも、とにかく生命力にあふれていました。見ているだけで元気が出てくるような。そして何と言っても、呼吸がぴったり。まさにゴールデンコンビでした。

 共演の歌舞伎俳優陣も極上の演技でした。山羊仲間の「たぷ」(中村萬太郎)は押し出しが良く、「みい姫」(中村米吉)は節目節目を彩り、「山羊のおじじ」(市村橘太郎)は奥深さをたたえ、「はく」(市村竹松)は個性が際立っていました。狼仲間の「がい」(河原崎権十郎)は正義感が心地よく、「狼のおばば」(市村萬次郎)は飄々ひょうひょうとしたおかしみをたたえ、「ぎろ」(中村錦之助)は憎まれ役っぷり(!?)が完璧でした。

 花形、若手、ベテランとバランスのとれた華やかな一座。今井豊茂さん脚本、藤間勘十郎さん演出・振付の今作は、歌舞伎の新しい時代を切り開く気概と可能性にあふれていました。

🐺🐐

 終幕の余韻を心地よく引きずりながら、エスカレーターでエントランスに降り、外階段を下りる。のぼりを緩やかにはためかせた秋風がほおをなでる。なんだか、空気が新鮮に感じるなぁ。気分も晴れやかだし。

 と、踊り場にさしかかった時、いつものひねたわたくしではなく、素直だった子供のころのわたくしに舞い戻ったような感覚が……。……童心? うん、それに近い。舞台を通して、ピュアなものを受け取った感覚がある。

 <自分を信じる><友を信じる><家族を信じる>。そして、<この先には喜びがある><きっとうまくいく>と確信する。

 子供時代、多くの人が無意識に共有する幸せなフィーリング。それを「夢」と呼ぶのかもしれない。

 子供たちは今の夢を信じて進む力を、大人は忘れがちな夢を持つ力を受け取る――。舞台って、ほんと“魔法”ですよねぇ。だからやめられません、博多座通い(笑)。

🐺🐐

 『あらしのよるに』の観劇料(税込)は、A席15,000円、特B席12,000円、B席9,000円、C席 5,000円。※博多座は通常、小学生未満の入場はお断りしていますが、『あらしのよるに』は絵本を原作にした演目であることから、「4歳以上入場可」となります。ひざの上にお子様をのせて観劇するのはご遠慮ください。

 チケットのご購入・お問い合わせは、博多座電話予約センター(電話092-263-5555、10時~18時)へ。有名プレイガイドの取り扱いを含む詳細は、博多座ホームページ(https://www.hakataza.co.jp/ticket/)をご覧ください。

中村 獅童(なかむら・しどう)
 1981年、二代目中村獅童を名乗り、歌舞伎座で初舞台。歌舞伎の古典では、立役として『義経千本桜 すし屋』のいがみの権太といった大役を務めている。その一方、様々なジャンルで活躍しており、最新のデジタル技術を駆使した「超歌舞伎」では映像の初音ミクと共演し、幅広い層に歌舞伎の魅力をアピールした。フランス・国立シャイヨー劇場で9月19日まで開かれたジャポニズム2018「松竹大歌舞伎」に出演。屋号は萬屋。
尾上 松也(おのえ・まつや)
 1990年、二代目尾上松也を名乗り、歌舞伎座で初舞台。名子役時代を経て、女方として数々の舞台を経験。最近は立役での活躍が目立ち、『義経千本桜 渡海屋・大物浦』の平知盛など古典の大役に挑んでいる。新作歌舞伎『マハーバーラタ戦記』では重要な役を演じた。舞台、映像とも様々なジャンルで活躍。9~10月にIHIステージアラウンド東京で開かれた舞台「ONWARD presents 新感線☆RS『メタルマクベス』disc2」 に出演。屋号は音羽屋。
「あらしのよるに」シリーズ(講談社刊)
 原作はきむらゆういち氏、作画はあべ弘士氏。1994年出版。95年、講談社出版文化賞絵本賞などを受賞。当初は第1作だけの予定だったが、好評を受けてシリーズ化され、第6作『ふぶきのあした』でいったん完結した。しかし、人気はとどまることを知らないため、特別編『しろいやみのはてで』、さらには第6作の続編『まんげつのよるに』が出版され、ようやく完結をみた。映画化、アニメ化もなされ、東宝映画版はきむら氏自らが脚本を担当し、2007年の日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞を受賞した。15年には京都・南座で歌舞伎舞台化され、翌16年には東京・歌舞伎座で再演。18年11月、福岡・博多座上演を迎えた。
きむら ゆういち
 多摩美術大学卒業後、造形教育の指導、テレビ幼児番組のアイデアブレーンなどを経て、絵本・童話作家に。代表作の『あらしのよるに』は幅広い層に愛され、数々の賞を受賞。小学校の国語教科書や高校の英語教科書にも採用され、その人気は海外にも及ぶ。2019年には作品誕生25周年を迎える。
あべ 弘士(あべ・ひろし)
 北海道生まれ。1972年から25年間、旭山動物園(北海道旭川市)飼育係として勤務。現在は絵本を中心に創作している。『あらしのよるに』(講談社)で講談社出版文化賞絵本賞など、『ゴリラにっき』(小学館)で小学館児童出版文化賞、『ハリネズミのプルプル』シリーズ(文渓堂)で赤い鳥さし絵賞、『どうぶつゆうびん』(講談社)で産経児童出版文化賞ニッポン放送賞を受賞。他の作品に『えほんねぶた』『みんなのせて』『エゾオオカミ物語』(いずれも講談社)などがある。

<劇中写真はいずれも博多座提供>

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