[ぷちレビュー]映画『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』 クセ強っ⚡️ハイテンション・ロック・コメディー 阿部サダヲ×吉岡里帆 歌に愛に屈折ミラクルパワーさく裂💥 ぶっちぎりにおもしれぇんだよ!!

 映画『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』が10月12日(金)、TOHOシネマズ天神・ソラリア館やユナイテッド・シネマキャナルシティ13などで全国公開されました。カリスマの男性ロックスターと、無名の女性ストリートミュージシャンを軸にした、「声」をめぐるオリジナル“冒険”ストーリー。その奇抜さ、エネルギー、パンチ、毒気、怒とうの展開に圧倒され、書き下ろしをはじめとする楽曲の質の高さに心を揺さぶられ、屈折気味の愛や絆にホロリとさせられます。いやー、監督・脚本の三木聡さんワールド全開、会心作です。ちなみに、作品の略称は「音タコ」(オフィシャル!)で~す。

 冒頭、ハチャメチャ感のあるシュールな入りに、目をぱちくりしていると、度肝を抜くライブシーンが始まります。ガンガンのロックンロールのリズムに、キャッチーでクールなリリック。歌うは主演の阿部サダヲさん。実際にバンドでボーカルを務めていることもあり、キーの高い難曲をたたきつけるような迫力で歌い、ガツンと聴かせます。ここで、観る者は気づきます。<この作品は音楽に本気だ>と。で、主なキャストを頭に浮かべながら期待するのです。<きっと面白い世界が広がっている>

 東京。ライブで熱唱しているのは、「絶叫する堕天使」の異名を持つロックスターのシン(阿部サダヲ)。4オクターブの音域を持つ驚異の歌声はすべての人をとりこにし、今やその存在自体がロック! 素行の悪さも含め、カリスマ的な人気を誇ります。が、実は秘密がありました。その歌声は、「声帯ドーピング」という禁断の手段でつくられたものだったのです。長年にわたるドーピングの副作用で、限界が近づくのど。声を失う恐怖と焦りを抱えた彼が偶然出会ったのは、異様に声が小さいストリートミュージシャン・ふうか(吉岡里帆)でした。シンの最後の「歌声」をめぐって渦巻く陰謀。二人は謎の組織から追われるはめになって――。

 シン役の阿部サダヲさんは、共演の吉岡里帆さんいわく、「コメディーの王様」。特に、演技力に裏打ちされた、エネルギッシュな面白さの表現が白眉なのはご承知の通りです。今作でも疾走感のある圧倒的な演技で、物語をグイグイと引っ張っていきます。ふうかの歌を聴くや、「心が燃えない、心の不燃ゴミ」「音量を上げろタコ! なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!」と絶叫。いわゆる罵詈ばり雑言なのに、不思議と爽快感が漂い、役柄にピタリとフィットしています。落ち込んだふうかが音楽と距離を置きそうになると、下宿に押しかけて「やらない理由を探すな!」とシャウトして説教。ほどよいさじ加減の人情味も相まって、そのメッセージはふうかとともにこちらにも届きます。阿部さんは「三木監督と初めてご一緒できてすごくうれしかった。言われたことは何でもやろうと決めてやっていました。叫びも歌も本当に難しかった」と振り返っています。わたくし、シン役は阿部さん以外には考えられません。

 大ブレイク中の吉岡里帆さんは、無防備ささえ感じる透明感が魅力。そのコメディエンヌぶりも高く評価されており、今回のふうか役でさらにグレードアップしました。特に、前半の<内気で何事にも逃げ腰>感は絶妙で、味わい深ささえ感じました。ドーピングに気づき、シンの過去を知り、次第に心を開いていく過程の繊細な表現も見事。終盤、覚悟を決めてから発揮する「変な」強さの出し方も秀逸でした。「初めて(映画の)企画書をもらった時、タイトルが頭にガツーンと入ってきて、『もっとしゃかりきにできんじゃねーか』と言われたような、エールをもらったような感覚があった」という吉岡さん。「ふうかとしては、できるだけ生身で素直に、しっかりと感情が動く状態にしておこうと意識して挑みました」と明かしています。今作のために半年にわたって猛特訓したというアコースティックギターの弾き語りは、覚醒したふうかの野外ライブシーンで花咲きます。個人的には、一番胸が震えた場面でした。

 「動」と「静」。正反対のシンとふうかは、実は人間関係にトラウマを持つ点で共通しています。当然ながら、それは音楽活動にも影響を及ぼしています。そうしたことを知り合うにつれ、二人は心を通わせ、最高のバディになります。最終盤には、謎の組織から逃げるため、長崎県・対馬、韓国・釜山と波乱万丈の“冒険”を繰り広げます。そのロードムービー的展開には、徐々にロマンチックさが加味され、二人の関係も接近していきます。見所の一つは、二人がバイクで逃げるシーン。吉岡さんは「遅めに来た青春という感じ」と表現していますが、まさにその通り。若気の至り的ドキドキ感が弾けます。そして、その流れで感動的な……あえて武骨なのに、すごくキュンとする……二人のシーンがあります。

 共演者たちの“怪演”も見逃せません。というか、登場人物の一人ひとりがくせ者で独特の魅力があり、なくてはならない存在感を放っています。この面々を中心にしたスピンオフ制作をお願いしたいくらい、です。

 レコード会社のシン担当・坂口役の千葉雄大さんは、シンに振り回される気弱なキャラクターながら、裏では陰謀を計画するアンビバレントさを巧みに演じました。ニセ天気予報風(笑)に言うと、<ドタバタ時々悪巧み一時妖艶のち変わり身>という感じ。甘いマスクとのギャップがサイコーでした。

 ふうかが下宿している吉祥寺のアイスクリーム屋。経営するのは親戚のデビルおばさんと、その夫のザッパおじさんです。80年代には「ガラスの仮面」というバンドを組み、レコードデビューもしたというこの夫婦、ハチャメチャでイケてます。おばさん役のふせえりさんは、黒ずくめの服を着る魔女キャラ。やたらと声がデカく、混乱に拍車をかけてくれます。アナーキーさが自然にほとばしる演技は、さすがの一言。それだけに、ふうかとのエモいシーンは、効きます。おじさん役は福岡県出身の松尾スズキさん。んもう、ヒッピー&サイケデリック(!?)感がぶっ飛んでいて、ギャグを連発します。ご自身が言っているように、「一番ふざけていて良いポジション」を楽しんでいるのが伝わってきました。

 シンの所属事務所社長は、ドーピングを受けさせた張本人であり、音楽界の裏の裏まで知り尽くす“妖怪”。シンの最後の「歌声」にも迫ります。その怪しさを体現した田中哲司さんは、実力派の面目躍如でした。落ち武者ヘア+ティアラ! インパクト半端なかったっス。

 ドーピング話をふうかから聞くアングラの女医役は、三木作品常連の麻生久美子さん。左目に眼帯をしたミステリアスさが目を引きました。個人的には、ふうかのパラレルワールドの住人と勝手に解釈して、楽しみました。

 ところで先に、<この作品は音楽に本気だ>と書きましたが、それは二つの主題歌に触れれば分かります。

 冒頭のライブシーンで披露される「人類滅亡の歓び」は、シンの世界観を象徴するとともに、作品の“通奏低音”であるエネルギーを表現する重要な楽曲。作曲は人気ロックバンド「L’Arc~en~Ciel」のボーカルでソロ活動も行うHYDE さん、作詞は元SUPERCARのいしわたり淳治さんという豪華コンビです。激しく、メロディアスで、骨太――。シングルカットしてほしい、っていう勢いで好きです。一方、ふうかが野外ライブで歌う「体の芯からまだ燃えているんだ」は、若者を中心に絶大な支持を集めるシンガーソングライターのあいみょんさんが作詞作曲を手がけました。美しい旋律にのる歌詞は、シンとふうかのシンクロする心情を繊細に表現。遠くにも届けとばかりに熱唱するふうかと、離れた場所で耳を澄ますシンの姿を感動的に包み込み、ラストに伸びやかな力を与えています。この2曲以外のオリジナル楽曲なども質が高く、作品を見終わると、1枚のすてきなアルバムを聴いたような感動を覚えました。

 監督・脚本の三木聡さんは、放送作家として活動し、2005年の「イン・ザ・プール」で長編映画監督デビュー。以来、オリジナリティーあふれる作品を発表し、熱狂的なファンを獲得しています。「今までやってきたことの集大成」「すべてをやりきった」と言う今作には、シンが叫ぶ「やらない理由を探すな!」をはじめ、様々なメッセージが込められています。

公開
10月12日(金)~
出演
阿部サダヲ、吉岡里帆、千葉雄大、麻生久美子、小峠英二(バイきんぐ)、片山友希、中村優子、池津祥子、森下能幸、岩松了、ふせえり、田中哲司、松尾スズキ
監督・脚本
三木聡
音楽
上野耕路
主題歌
SIN+EX MACHiNA「人類滅亡の歓び」(作詞 いしわたり淳治、作曲 HYDE)(Ki/oon Music)
ふうか「体の芯からまだ燃えているんだ」(作詞・作曲 あいみょん)(Ki/oon Music)
配給・制作
アスミック・エース

 全国の上映館などについては、公式サイト(http://onryoagero-tako.com/)をご覧ください。

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