[ぷちレビュー]カンヌ出品映画『寝ても覚めても』 愛するのはなぜその人なのか―― スリリングな展開で恋愛観を揺さぶるラブストーリー 「日本映画のヌーヴェルバーグ」! 9月1日(土)、KBCシネマなどで全国公開

 今年の第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された『寝ても覚めても』が9月1日(土)、福岡市中央区のKBCシネマなどで全国公開されます。原作は芥川賞作家・柴崎友香さんの同名恋愛小説。同じ顔をした二人の男の間で揺れ動く女性の物語を、気鋭の濱口竜介監督が鮮烈に描きます。人はなぜ人を愛するのか、なぜその人でなくてはならないのか――。カンヌで「日本映画のヌーヴェルバーグ(新しい波)」と絶賛された秀作は、衝撃的な展開で観客をほんろうし、共感する人にも反感を覚える人にも、うずきを残すことでしょう。誠実ゆえの残酷さ。そう、人は傷つき、傷つけながらも愛さずにいられない。逆説的に愛する勇気がわいてくる映画、と言えます。

 <東京。日本酒メーカーで働く会社員、丸子亮平(東出昌大)は、会議室にコーヒーポットを引き取りにきた喫茶店店員、泉谷朝子(唐田えりか)と出会う。なぜか自分を避ける朝子。いぶかりながらも思いを告白すると、いったんは受け入れられるものの、すぐに別れを告げられる。朝子は亮平に言えない秘密を抱えていた。かつて大阪で運命的に恋に落ちた恋人、鳥居ばく(東出昌大)に顔がそっくりだったのだ……>

 作品は、麦と亮平の間で揺れ動く朝子の8年間を丁寧に追う形で進行します。自分をしっかり持った聡明な朝子は、ミステリアスな自由人、麦と恋に落ちます。しかし、不安は的中し、麦は半年後、突然姿を消します。2年後の東京。実直なサラリーマン、亮平は温かく安心を与えてくれます。曲折の末、気持ちを確かめ合った二人は5年後、静かに幸せな日々を送っていました。ある日、朝子は麦が有名タレントになったことを知り、心にさざ波が立ちます。そんな折、大阪転勤が決まった亮平からプロポーズされ、思い切って秘密を告白します。驚いたことに、亮平は秘密を察したうえで、朝子を受け入れていました。気持ちの整理をつけ、結婚を決断する朝子。二人は親友たちとお祝いの食事を楽しみます。そこに突如、麦が現れて――。

 ここで、朝子が衝撃的な行動に出ます。多くの人の予想を裏切る、自分の気持ち(本能)に正直な言動は、ある種の狂気さえ漂います。そのせいかこのシーンを境に、作品にシュールなベールがかかるように感じます。幸せな日常は一瞬にして過去のものになり、物語は一気にスピードアップします。スクリーンの現実についていけない自分に気づく人がいるかもしれません。さらに、すぐに驚きの展開があります。「えっ」と声が出そうになるくらい。その後は、胸をかきむしられるようなシーンの連続。果たして、彼らはどこにたどり着くのか――。

 見る者は問われます。

 <朝子のように、愛に、自分に正直に生きることができますか>
 <それはいけないことですか>と。

 答えは人それぞれでしょう。ただ、恋愛の困難さや、裏腹の暴力性を再認識することによって逆に、真正面から向き合う勇気がわいてくる人が少なからずいるのではないでしょうか。そしてそれは、先の見えない人生を歩いていく勇気にもつながるのです。

 主演の東出昌大さんは、一人二役を演じました。亮平役では、朝子を思う一途さと包容力を充満させ、悲しみや苦しみの場面では目を背けたくなるほどの切実さをたたえていました。麦は存在そのものが謎めいており、登場シーンもセリフも限定的。それでいて、朝子が心のどこかで思い続ける魅力を発する必要があります。文字通りの難役を、誤解を恐れずに言えば、ヒール(悪役)感をまとうことで立ち上がらせています。本作で新たな境地を切り開いた感があります。

 本格演技デビューとなった唐田えりかさんは、みずみずしさと透明感が光りました。朝子は内省的で苦悩と決断を繰り返しますが、自分に正直であり、揺るがない強さを秘めています。そんなヒロインをいい意味で演技に見えないナチュラルさで表現しました。印象的だったのはやはり、作品全体の分水嶺となる衝撃シーン。愛の暴力性を、感情を抑えていつもの朝子のままで表出させるという難しい場面を見事にこなしており、才能と将来性を感じました。

 作品には、いくつかのサイドストーリーがあります。このうち、麦の遠縁にあたる岡崎家の母子の物語は、特に効いています。母親の栄子(田中美佐子)と息子の伸行(渡辺大知)は麦を居候させ、恋人の朝子とも心を通わせます。この序盤シーンに複数の伏線が張ってあり、最終盤、行き場のなくなった朝子が久しぶりに訪れると、一気に回収されます。「生きること」と「愛すること」。悩みながらもこの二つに向き合えることが、いかに恵まれたことか。朝子とともに痛感せずにはいられません。そして栄子は、生きるコツ、ひいては愛するコツを何げなく朝子に伝え、送り出します。

 ほかの主な共演陣は瀬戸康史さん、山下リオさん、伊藤沙莉さん、仲本工事さん。渡辺大知さん、田中美佐子さんを含め、時の経過とともに変わっていくもの、変わらないものを体現し、作品に深みを与えています。

 メガホンをとった気鋭の濱口竜介監督は、前作『ハッピーアワー』(2015年)でロカルノ、ナントなど数々の国際映画祭で主要賞を受賞し、その名を世界にとどろかせました。『寝ても覚めても』は満を持して放つ商業映画デビュー作。「社会の中で個人が率直に感情を表現する」という一貫したテーマの集大成とも言えます。密度の高いセリフ、緊張感のある会話、細密な日常描写……。カンヌで「近年まれに見る新たな才能の出現」と評された力量があふれています。

 音楽は、日本のエレクトロミュージック界を若くして先導するtofubeatsさんが担当。情感豊かな劇伴と書き下ろしの主題歌「River」が物語に寄り添います。

出演
東出昌大、唐田えりか、瀬戸康史、山下リオ、伊藤沙莉、渡辺大知(黒猫チェルシー)、仲本工事、田中美佐子
監督
濱口竜介
原作
「寝ても覚めても」柴崎友香(河出書房新社刊)
脚本
田中幸子、濱口竜介
音楽
Tofubeats
主題歌
tofbeats「River」(unBORDE/ワーナーミュージック・ジャパン)
上映時間
119分
配給
ビターズ・エンド、エレファントハウス

全国の上映館などについては、公式サイト(http://netemosametemo.jp/)をご覧ください。

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