[ぷちレビュー] アニメ映画監督・細田守さんの最新作「未来のミライ」 人間の「生命」が織りなす巨大なループを優しい筆致で描く 「自分」「家族」をとらえ直すファンタジー 主人公の声は女優・上白石萌歌さん 大ヒット公開中

 自分は何のために生まれてきたのか。
 父母やきょうだいでも理解し合うのは難しい。
 祖父母や先祖の人生は自分の人生には関係ない。

 「存在」に関し、そう思ったことはありませんか。

 自分はどこから来てどこへ行くのか。
 父母やきょうだいは人生に何を思うのか。
 祖父母や先祖はどんな一生を送ったのか。

 「来し方行く末」について、そう考えたことはありませんか。

 もし該当するものがあるなら、そのヒントなり答えなりは、「未来のミライ」にあるかもしれません。世界のファンが待ち望んだアニメーション映画監督・細田守さんの最新作に。登場人物に息を吹き込むのは豪華俳優陣。福岡市のTOHOシネマズ天神・ソラリア館など全国で公開され、大ヒット中です。それから――見終わったら、世代を超えて「みんなの未来」に希望を持てることと思います。もし可能なら、おじいちゃんやおばあちゃんをお誘いして、三世代でご一緒にどうぞ。

 とある都会の片隅の一軒家。甘えん坊の4歳の男の子、くんちゃん(声・上白石萌歌)は、妹の誕生を喜んだのもつかの間、両親の愛情を“奪われ”、戸惑っていました。そんなある日、庭の木のそばで不思議な体験をします。空間にゆがみが生じたかと思うと、「かつてこの家の王子だった」と名乗る謎の男(声・吉原光夫)が現れ、話しかけてきたのです。別の日、今度はセーラー服姿の妹ミライちゃん(声・黒木華)が未来からやってきます。くんちゃんは「好きくない」と言いながらも、徐々にうち解けていきます。そして、導かれるように時空を越え、過去や未来を行き来するようになります。それは小さなお兄ちゃんの大きな冒険であり、「家族の物語」を知る壮大な旅でした。未知の世界で、見て、触れる家族の「愛」や「心」。旅を終えたとき、くんちゃんはどこにたどり着くのか。ミライちゃんがやってきた理由とは――。

 優しい筆致で描かれるのは、どこにでもある家庭の日常。だから、一つひとつの場面、エピソードに共感しながら、ストーリーを追っていけます。裏腹に、その平凡さが弱点になるかと思いきや、くんちゃんが出会う人物や旅の行き先ごとのミニストーリーを連ねるオムニバス形式になっているので、あきさせません。むしろ、物語が進むにつれ、くんちゃんや家族に起こるちょっとした変化を、さらりと、しかしビビッドに映し出す効果を生んでいます。

 それでは、声を担当した豪華キャスト陣を記しつつ、作品のメッセージに触れていきましょう。

 女優の上白石萌歌さんが担当したくんちゃんは、鉄道が大好きな優しい子。ですが、新生児の妹が両親の愛を独り占めしているとやきもちを募らせます。電車模型でたたく衝動にかられるほどに。ところが、時空を越えた旅が変化をもたらします。幼い頃の母との不思議な体験、父親の面影を宿す青年(声・福山雅治)との出会い、そしてミライちゃん……。家族の来し方や愛の形を知り、子供ながらに極限状態を体験することで、自分の心根に気づき、ささやかな成長を遂げます。

 主人公が様々な体験を通して内面的に成長する過程を描いているという意味では、ストーリーはある種のビルドゥングスロマン(教養小説)ととらえることができます。特に注目したいのは、4歳児を主人公に据えた点。これによって、「生命」「家族」といった全人類的なテーマを提示するにあたり、国境を越えて見る者にまっさらな視点を与えています。このあたりは、海外でも高く評価される細田監督の真骨頂と言えるかもしれません。また、どこにでもある一家庭を舞台にすることで、「結婚」「出産」「子育て」「夫婦」「仕事」といった日常的なテーマも盛り込む一方、過去・現在・未来という壮大な時間軸をものさしにしています。これらにより、全体として、人間の命や営みが織りなす巨大なループを描くことに成功しています。

 建築家のおとうさん(声・星野源)と、仕事に子育てにと大忙しなおかあさん(声・麻生久美子)は、夫婦仲は良好ながら、子育てに関しては微妙なズレが見え隠れします。夫婦といえども、いや、夫婦だからこそ理解できないこと、知らないことがあるという、ある意味では残酷な事実にあらためて気づかされます。それでもおとうさんは、初めて本格的に赤ちゃんのお世話や家事を体験しておかあさんの大変さを実感し、くんちゃんが自転車に乗る練習を通じて成長する姿に親として胸を震わせます。おかあさんは悩み多き子育てについて、実母であるばあば(おばあちゃん、声・宮崎美子)と率直に語らい、自分の口癖がかつての母の口癖であることを知り、世代や時代をつなぐという大きな視点を得ます。そうするうちに、本音の部分でお互いに許容し合い、尊重し合えるようになっていきます。試行錯誤する日常の中にこそ、夫婦の「幸せのタネ」もある、ということが伝わってきます。

 女優の黒木華さんがキャストされたミライちゃんは、元気いっぱいだし、おちゃめだし、目立つ存在です。しかし、あくまで「こちら側」と「あちら側」をつなぐ“霊媒師”的な役割に徹します。それだけに、最終盤でくんちゃんに全体像を一気に解き明かすシーンは、「重み」がありました。絵柄的には逆に、「浮遊」感がきわまっている点には演出の妙を感じました。その中で、人間がつむぐ「生命のループ」が具象化されます。言ってみれば、作品が描いていることそのものであり、どんな人も気の遠くなるような時空の流れの中に奇跡的に存在する唯一無二の存在であることが示され、クライマックスに向かいます。ミライちゃんが生まれつき持つ右手のあざは、特別な役割を持つ人の「印」であると同時に、「唯一無二」の象徴でもあるように感じました。

 ――人は迷い、悩みながら生きている。つまずいたときには、物心ついた頃に意識を戻してみるのもいい。そこには無垢むくな自分と、自分の存在につながる人たちがいる。フレッシュな気持ちで人生をとらえ直し、再び歩く勇気と力を得ることができる。気づけば、道の先に一筋の光が差しているはずだ――。映画が終わったとき、そんなメッセージを受け取った気がしました。

 作品ではこのほか、俳優の役所広司さんが声を担当するじいじ(おじいちゃん)ら様々な人物が登場します。個人的には、未来の東京駅でくんちゃんが出会う遺失物係のロボット駅員が「肝」でした(笑)。絵的に印象に残ったのは、握ったり、差し出したりと、いくつかあった「手」のシーン。それは純粋さ、優しさの象徴のように映りました。くんちゃんらが笑ったり、驚いたり、ショックを受けたりする場面で、ギャグ漫画風のコミカルなタッチが使われているのはサプライズ感がありました。

 音楽は細田監督のたっての希望を受け、山下達郎さんが担当。オープニングとエンディング曲を書き下ろしています。冒頭から響くフレーズがキャッチーで、いつの間にか作品世界にいざなわれます。

 細田監督は1967年生まれ。99年に「劇場版 デジモンアドベンチャー」で映画監督デビュー。2006年公開の「時をかける少女」(原作・筒井康隆)が記録的なロングランとなり、国内外で注目を集めました。09年に自身初となるオリジナル作品「サマーウォーズ」を発表。11年にアニメーション映画制作会社「スタジオ地図」を設立し、「おおかみこどもの雨と雪」(12年)、「バケモノの子」(15年)と話題作を送り出しています。「未来のミライ」は今年5月の第71回カンヌ国際映画祭・監督週間に選出・上映されて大きな反響を呼び、世界各国・地域での配給が決まっています。

 全国の上映館については、「未来のミライ」公式サイト(http://mirai-no-mirai.jp/)をご覧ください。

<画像はいずれもスタジオ地図提供>

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