実は西区姪浜をイメージ! 公開中の映画「君が君で君だ」 主演の池松壮亮さん「尾崎豊さんの影響受けた」、監督の松居大悟さん「作品の『魂』共有した」 福岡の特別上映会であいさつ

 福岡市のT・ジョイ博多などで7月7日から公開中の映画「君が君で君だ」(ティ・ジョイ配給)は、三人の男の普通じゃない「愛」の物語を描き、「刺激的」「考えさせられる」と注目度が上がっています。主演の池松壮亮さんと、監督の松居大悟さんはともに福岡出身で旧知の間柄。6月29日には福岡市でそろって舞台あいさつし、作品や演技などについて熱く語りました。

 作品のあらすじはというと――三人の男は、ぼろアパートの一室に身を潜め、共同生活を送っていました。目的は、向かいのアパートで暮らす、共通して好きになった韓国人女性ソン(キム・コッピ)を見守ること。しかも、本名を捨て、伝説のロックシンガー尾崎豊(池松壮亮)、ハリウッドの名俳優ブラッド・ピット(満島真之介)、日本の歴史を大きく変えた坂本龍馬(大倉孝二)になりきって。なぜ? ソンがあこがれる人物だから。そんな“聖なる”日常が10年目を迎えたある日、三人はソンに迫る借金取りの女ボス星野(YOU)と子分の友枝(向井理)に見つかってしまいます。乗り込まれ、歯車が狂い、事態が動き出します。常識を超えた「愛」はどこに行き着くのか。三人に救いはあるのか。

 舞台あいさつは、福岡市のT・ジョイ博多(JR博多シティ9階)で開催された特別上映会の前に行われ、池松さんと松居監督は司会者の質問に答える形で話しました。

 冒頭、松居監督は「公開前に福岡に来ることができてうれしい。今だからできる話をしたい」とあいさつ。自身が原作・脚本も担った完全オリジナルストーリーである作品に関しては次のように述べました。

 「着想に入ったのは2011年。当時、演劇を手がけていたんですけど、自分の中で苦しい思いをしていた時期で、何も信用できなくなって……。そんなとき、男女がきちんと向かい合う恋愛ドラマが腑に落ちなくなった。『思いを伝えないのはいけないことだ』ということになっているような気がして。僕は伝えてこなかったし、でも思いは強いし……。『だれかを思うことそのものがすてきなんだよ』って伝えたくて、この作品をつくろうと思いました」

 作品の舞台を聞かれると、「オープンには言ってないんですけど、福岡です。僕の中では姪浜の設定です」とサービス満点の回答。「池松さん、(ソンの彼氏役の)高杉(真宙)さん、(特別出演の)光石研さんと福岡出身の人もいますし」と続け、博多弁を使うシーンを盛り込んだ背景にも言及しました。ソン役のキム・コッピさんが韓国・釜山出身であることにも触れ、「福岡の海の向こうに釜山がある、という位置関係もイメージしながらつくりました」と述べました。

 <3人の男が尾崎、ブラピ、龍馬になりきる>という設定にした理由については、「自己犠牲として、『だれかのための自分』になるっていうのがいいなと考えました」と説明。「女の子が『長い髪が好き』って言ったから髪を伸ばすとか、ロックが好きだからロックを聞く、みたいなことがあると思うんですけど、あの人物のことを好きっていうからあの人になっちゃう、自分を捨ててあの人になる、みたいな人のことが、僕はすごく愛おしいというか……。不器用だなって思うんですけど、そういう人を描きたかった」と語りました。関連して、「僕は『本人役』(を演じてもらう)というのを、映画やドラマで結構やっているんですが、それは作品に説得力を、虚構を超える説得力を持たせることができるから。(本人ゆえの)『演じられなさ』が人間くさくて好きだっていうのもあります。その『なれなさ』が、『思いの届かなさ』につながる」と言葉を継ぎました。

 池松さんとの関係を尋ねられると、「2010年に僕がラジオドラマの脚本を担当していたときに、彼が福岡から上京してきて、そのドラマで一緒になったのが最初。その後、舞台だったり、ミュージックビデオだったり、映画だったりと、自分のターニングポイントでは必ず池松さんと作品をつくっている感じですね」と紹介。「普通に話もしますし、先の仕事のことについて僕が相談することもあります。そんなときは、おじいちゃんのように(笑)アドバイスしてくれます」と会場を沸かせました。池松さんをキャスティングした理由に関しては、「長い付き合いであり、いろんな話をしてきたし、いろんな『共通言語』がある。俳優・池松壮亮というよりも、このテーマ、映画に向けて一緒に戦う仲間として出演をお願いした」と力を込めました。

 撮影前に入る前には、“合宿”をしたといいます。

 松居監督は「(池松さんが)『いろんなことをきちんと理解しないといけないから、ちょっと話しましょう』と。で、僕の家に来て、台本の1行目から順に、『このト書きはどういう意図なのか』『このセリフはどうか』『このシーンはどういう風に伝わるべきか』と。<あぁ、これは朝までいくなぁ>と思ったら朝までいって、という夜が3回くらいありました」と笑顔であきれてみせました。一転、口元を引き締めると、「二人以外にもカメラマン、助監督らがいて……。僕は口べただし、感覚的なことを言っちゃうんですけど、(池松さんは)座長としてそこを言葉にしたりとか、この作品の魂をどう背負うべきかということを議論してくれたりしました。おかげで、みんなでかなり共有できました」と感謝の気持ちを表しました。

 一方、冒頭のあいさつで「福岡(の舞台あいさつ)は知っている顔が並ぶので、わりと恥ずかしいんですよね」と照れた池松さんは、作品について「尾崎豊さんの映画だと思ってオファーを受けたら違ってて、ちょっと失敗したなと(笑)」とジョークで笑いを誘いました。

 尾崎豊さんとの関係性を問われると、「わりと影響を受けて育ってるんですよ、実は」と即答。「父親の影響で小さい頃から曲を聞いていました。僕の記憶では、物心ついて初めて覚え、歌っていた曲が(尾崎さんの代表曲の一つ)『僕が僕であるために』。僕は90年生まれで、尾崎さんは92年にお亡くなりになったんですけど、あの方の表現というか、(心で)叫んでいたことが、自分の体に染みこんでいるような、体の中を流れているような部分があって……」と語りました。そのうえで作品に言及し、「とはいえ、今回は(真の意味での)尾崎さん役じゃない。(自分が演じた男は)自身がなりたかったからではなく、好きな女性があこがれているから尾崎さんになってみた、という設定です。尾崎さん役とはすごく“距離”があるので難しいところなんですけど、僕としては(自分が演じた)あの青年が目指そうとしたことと、尾崎さんが残した表現が最後にちょっとだけリンクしてくれば面白いかな、と思ってやりました」と話しました。

 松居監督の魅力については次のように答えました。

 「ひとことで表すのは難しいですけど、今回の作品に関して言うと、好きな人に会おうともしない人たちを主人公にした、こういうところにすごく面白みがあると思います。普通の恋愛映画は経緯や結果が大事であり、手をつなぐ瞬間、見つめ合う瞬間、キスをする瞬間と、そういうものに価値があるはずなんですけど、(その前提に立つと)監督の人を見るアプローチはすごく面白いなと。魅力というと難しいんですけど、純度が高い。いつもすごく奇抜で破天荒な映画をつくるんですけど、そこにすごく純粋な初期微動のような思いがある。そういう部分にひかれているというのはあります」

 作中では、三人の男の常軌を逸した行動、倒錯した行為の数々が強烈に描かれます。

 そうした撮影中の雰囲気について松居監督は、撮影時期が昨年7月だったことを明かしたうえで、「(メーンの撮影場所は)アパートの2階だったんですけど、屋根が薄いからものすごく暑くて、みんなもう脳みそが溶けちゃってて(笑)、何でもOKみたいな空気がありました」とユーモアたっぷりに説明。「むちゃなシーンは吹き替えでやる予定だったんですが、(俳優が)『あ、これなら(吹き替えなしで)俺できるよ』とおっしゃるので、『じゃ、やっていただこう』と(笑)。『俺、これ食べちゃうよ』とおっしゃれば、『じゃ、食べていただこう』みたいな感じで(笑)」と内幕を教えてくれました。

 ここで、池松さんが「(そんなことは)言ってないと思いますねぇ」と茶々を入れると、松居監督が「いや、絶対言ったんですよ」とお返しし、場内は爆笑に。

1枚目 池松さんは「映画を撮っている時って、魔法にかかったような気分になるんですよ。自分の『気』を高めてやっているので。例えるなら、『文化祭の最終日』みたいな感覚が2週間くらい続くわけです。だから、突拍子もないことを言ってしまうんですよね」と、演技派俳優ならではの感覚を口にしました。そして、ちゃめっ気たっぷりに「先ほどのエピソードでいえば、階段を落ちるなんていうのは、けがのこともありますし、所属事務所が許してくれないものなんですけど、魔法がかかっているもんで(笑)、『俺がやる』って言って、やっちゃったりするんですよね。それでけがして、後悔して、どんどんあざが増えていく(笑)」。これには、松居監督が「映画(のストーリー)が進むにつれ、どんどんあざが増えていくんですけど、そこは見ないでほしいですね(笑)」と受けてみせました。

 特別上映などで一足早く作品を見た人の間では、受け止め方が大きく分かれているといいます。これに関し、松居監督は次のように語りました。

 「感想が極端だったりするなぁと思っています。(三人の男の行動について)『こんなことはやってはいけない』というのもそうだし、『わけも分からず涙が流れた』というのもそうだし……。結局、僕がやろうとしていることというか、大事にしているのは、全員が楽しいとか、全員が泣けるっていうのではなくて、『見た人の数だけ作品がある』という作品づくりだという思いがすごくあります。言い換えれば、この感情は純愛であるとか、この感情はストーカーであるとか、そういう(ワンフレーズの)言葉ではなくて、例えば小学生の時、好きな子を無意識に目で追いかけてしまうというような、言葉になる前の感情を描きたいと思っています。ですから、そういう風に作品を見ていただきたいですね」

 最後のあいさつで、池松さんは「乱暴だけど純粋、破天荒だけど純粋な作品なので、純粋な気持ちで見ていただければ。きっと日頃のことを忘れて、文化祭のような気分になれると思います」と話しました。松居監督は「(作品をつくった後に)僕らがやれることには限界がある中、映画を育てるのは見ていただいた方々だと思っています。ただ、この作品は、見た後に感想をしゃべりやすい内容じゃないし、『絶対見なよ』ってすすめやすくもない。それでもきっと、言葉にならない感情みたいなものなど、感じてもらえるものはあると思うので、それを周りの人に伝えてもらえれば」と呼びかけました。

 全国の上映館については、「君が君で君だ」オフィシャルサイト(https://kimikimikimi.jp/)をご覧ください。

 池松壮亮さんと松居大悟監督は舞台あいさつに先立ち、記者会見にも臨みました。近くその様子も紹介します。

池松いけまつ 壮亮そうすけ
1990年生まれ。福岡県出身。2003年、トム・クルーズ主演の『ラスト サムライ』でデビュー。14年に『紙の月』『愛の渦』『海を感じる時』『ぼくたちの家族』と注目作品に次々と出演し、日本アカデミー賞新人俳優賞とブルーリボン賞助演男優賞を受賞。17年には『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』に出演、第9回TAMA映画賞最優秀男優賞と第39回ヨコハマ映画祭主演男優賞を受けた。『万引き家族』(18年)など出演作多数。
松居まつい 大悟だいご
1985年生まれ。福岡県出身。劇団ゴジケン主宰。2012年に『アフロ田中』で長編映画初監督。その後、『ワンダフルワールドエンド』(ベルリン国際映画祭出品)、『アズミ・ハルコは行方不明』(東京国際映画祭、ロッテルダム国際映画祭出品)などを発表。枠にとらわれない作風が国内外で高く評価されている。ミュージックビデオやドラマ制作など活動は多岐にわたり、J-WAVE「JUMP OVER」(毎週日曜日午後11時~)ではパーソナリティーを務めている。
©2018「君が君で君だ」製作委員会
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