[ぷちレビュー] 松居大悟監督のオリジナル映画「君が君で君だ」 まさに“劇薬”! これは純愛なのか、異常なのか 半端ない疾走感で描く男3人の恋愛譚 7月7日(土)からT・ジョイ博多などで公開

 池松壮亮さん主演、松居大悟さん監督の映画「君が君で君だ」(ティ・ジョイ配給)が7月7日(土)から、福岡市のT・ジョイ博多などで公開されます。ともに福岡出身で旧知の間柄の二人が贈るのは、三人の男の普通じゃない「愛」の物語。設定、ストーリー、強烈シーンなど、何をとっても好みが分かれること必至です。ただ、これだけは言えます。こんなに刺激的な作品にはそう出会えません!

 三人の男は、伝説のロックシンガー尾崎豊(池松壮亮)、だれもが知るハリウッドの名俳優ブラッド・ピット(満島真之介)、日本の歴史を大きく変えた坂本龍馬(大倉孝二)。本名は捨て、共通して好きになった韓国人女性ソン(キム・コッピ)のあこがれの人物になりきり、向かいのぼろアパートの一室に身を潜めて共同生活しながら、ソンを見守っていました。ところが10年目のある日、ソンに迫る借金取りの女ボス星野(YOU)と子分の友枝(向井理)に見つかり、乗り込まれます。歯車が狂い、事態が動き出して――。

 冒頭から、三人の問題行動に驚かされます。

 ソンが自宅アパートに出入りするのを双眼鏡で観察するのは、まだかわいいもの。ある手段を使って生活の様子を把握し、彼女と同じ時間に同じ食べものを食しては狂喜乱舞します。日常的に後をつけて写真を隠し撮りしており、部屋は彼女の写真だらけ……。基地遊びに興じる無邪気な子供たちのような姿は、狂気まじりを否定できません。

 なぜ、そんな行動を? 次第に明かされていく中で、目を引いたのは池松さんの奥行きのある演技でした。ナイーブな一方、怖いまでの「一途さ」を持つ青年。ソンを見守る“聖なる”日常が崩れ、三人組の関係も変質していくにつれ、その「激しさ」が際立ちます。後半の倒錯した行為の数々は強烈。それだけに静のシーンが効果的であり、深読みさせます。

 満島さんは常に騒動の中心にいる先導役で、文字通り体当たりで若さをほとばしらせます。最終的な身の処し方を含め、「青春」の象徴と言えるかもしれません。それにしてもドタバタ感を出すのがうまい。独特の個性を持つ大倉さんの龍馬は、情けなくも愛らしい。自己コントロールできない「弱さ」があり、借金取りを引き込むきっかけをつくってしまいます。シュールな羽織袴姿がシュールに見えないのは、さすが。

 極めて特異な男たちですが、個人的には許容できました。

 それは第一に、三人がそれぞれ純粋で憎めない人間性を持っており、そこに救いがあるから。むしろ、生き馬の目を抜く社会を強者として生きていくには純粋すぎる。裏腹である「弱さ」が、特殊な条件下で歯止めのきかない「激しさ」と結びつき、「一途さ」を純化させていく様子には痛みを感じました。それは、彼ら自身を損なわずにはおかない。

 もう一つは、自分が三人のだれかであり得ることを完全否定するのは難しいから。認識の有無は別にして、彼らと同じような「弱さ」をだれもが抱え持っているとの立場をとった場合、どんな状況下でも彼らのようにはならないと断言できるのか。できると思う。しかし、エアポケットのようなあい路は存在するのではないか。そう考えるとき、作品に対するある種の共感に気づくのです。

 ソン役は、映画「息もできない」で世界の注目を集め、熱烈なファンを持つ韓国人女優キム・コッピさん。身を持ち崩しながらも懸命に幸せを求めるヒロインを、陰影豊かに表現します。終盤に何げなく明かされる、三人組に絡む<実は――>的な事実は、ちょっとしたサプライズでした。

 借金取りの女ボスは、YOUさんが好演。三人組に絡む中で自身の過去も語られ、ソンの人生と並んで、作品に厚みをあたえるサイドストーリーになっています。向井理さん演じる子分の友枝は、激しくもあくまでクール。それだけに、終盤の行動や感情をむき出しにするシーンは見所の一つです。

 福岡出身の高杉真宙さんの“怪演”も目を引きました。ソンに借金を肩代わりさせる彼氏、宗太役の「クズ男」感が見事であり、三人組と借金取りの「渦」に巻き込まれてヘロヘロになっていくおかしみは秀逸でした。ソンとの出会いや、秘めた思いを爆発させる場面では、ホロリともさせてくれます。

 松居監督は、疾走感のある映像に「今」を映し出す手腕をいかんなく発揮しています。特筆したいのは、原作・脚本も自身が手がけた完全オリジナルストーリーである点。資金面などから、「オリジナルは成功させるのが難しい」と言われる中、こん身の一作を世に問うたことに、せんえつながらエールを送りたい。

 作中では、池松さんらが尾崎豊の名曲「僕が僕であるために」を熱く歌う場面があります。おそらく、作品タイトル「君が君で君だ」は“下の句”にあたるのでしょう。素直に受け止めれば、愛のメッセージに読めます。反面、利己的なニュアンスをとらえることも可能です。

 常識を超えた「愛」はどこに行き着くのか。三人に救いはあるのか――。その解釈は見る者に委ねられており、必然的に自分や周囲を見つめ直すことになる気がします。激流のような作品を見終わった後、わたしの手のひらには「愛」という命題がちょこんとのっていました。

 全国の上映館については、「君が君で君だ」オフィシャルサイト(https://kimikimikimi.jp/)をご覧ください。

 池松壮亮さんと松居大悟監督は公開に先立って来福し、記者会見と舞台あいさつに臨みました。その様子も近く紹介します。

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