[ぷちレビュー] 映画「のみとり侍」 艶っぽくて爽やか! 江戸の浮世に生きる“いとをかし”な面々の痛快時代劇  5月18日全国公開

 今や日本を代表する俳優と言ってもいい阿部寛さん主演の映画「のみとり侍」が5月18日(金)に全国公開されます。数十年にわたり構想を温めた鶴橋康夫監督が満を持して届けるユーモアあふれる痛快時代劇。福岡県出身の松重豊さんら共演陣の一人ひとりも存在感があり、極上のエンターテインメントに仕上がっています。日本美が漂う江戸の街並みのシックさと、極彩色衣装のコントラストも鮮やか。これは見なきゃ損、ですぞ!

 作品は、江戸時代に実在した「猫の蚤(のみ)とり」稼業の世界を軸に描かれます。町を練り歩き、呼ばれた家庭の飼い猫の蚤を取る日銭商売。ただし、作中では、<床>で女性に愛を届ける裏稼業という設定になっています。

 越後長岡藩のエリート武士、小林寛之進(阿部寛)は「真面目一徹」「清廉潔白」「質実剛健」を絵に描いたような男。しかし、歌会の場で藩主(松重豊)に大恥をかかせ、江戸の貧乏長屋住まいの猫の蚤とりに左遷されてしまいます。初めてのお客、おみね(寺島しのぶ)に「この下手くそが!」と言われ、伊達男の清兵衛(豊川悦司)に“弟子入り”したり、権力者の交代で「蚤とり禁令」が出て窮地に立たされたり――。男と女、武士と庶民、割かれた愛と見つけた愛……。人間の喜怒哀楽がビビッドに、人情味豊かに描かれ、観客を引き込みます。

 阿部寛さんの二枚目役と三枚目役の演じ分けは、今や真骨頂と言える完成度。今回は特に、清兵衛の<床>テクニックをのぞいて勉強するシーンが秀逸でした。夢と現(うつつ)が交錯する中、人間の滑稽さと愛らしさ、そしてかすかな切なさがスクリーンにあふれます。それだけに、最終盤の武士らしいりりしさが引き立ちました。長身の立ち姿の美しさもスクリーンに映えます。

 共演陣の“怪演”ぶりも特筆ものです。

 寺島しのぶさんは、おみねと寛之進の亡き妻の二役。「情が深くセクシーで欲求不満」なおみね役はまさに熱演で、ほかの女優さんが演じるのはイメージできないほどすごみがありました。一転、過酷な運命が待つ亡き妻役は抑えた表現が効果的でした。

 そして、清兵衛役の豊川悦司さん。旗本の生まれながら、小間物問屋の入り婿。恐妻家なのに、プレイボーイはやめられない。ダンディーだけど、はかなげ。この一筋縄ではいかない人物を、阿部寛さんとがっぷり四つに組みながら、けれん味なく演じました。

 寛之進の上をいくような清廉な役柄を担ったのは斎藤工さん。食うに困る暮らしなのに、子供たちに無償で読み書きを教える寺子屋の先生。貧しさの中に見え隠れする高貴さが光りました。昼の涼しげな顔と、夜の苦しげな顔の違いも印象的でした。

 風間杜夫さんと大竹しのぶさんが、蚤とり稼業の親分夫婦役。敵討ちのために身をやつしていると勝手に勘違いし、寛之進を雇う面倒見のいい親分と、イケメン大好きで屈託のないおかみは、父性と母性の象徴のようでもあり、ストーリー展開のハブになっています。おかみが「読売(瓦版)に載ったらどうすんのさ!」というような言い回しで、敵討ちのもくろみが露見するのを心配するシーンは、個人的にドキっとしました。

 “飛び道具”として効いていたのは、清兵衛の恐妻を演じた元AKB48の前田敦子さん。とんでもない浮気防止策を実行するエキセントリックな役柄を思い切りよくこなす一方、女性のかわいらしさもチラ見せ。新たな境地を切り開いた感があります。

 松重豊さんは、寛之進を左遷する藩主役。おバカなキャラクターだけに、苦虫をかみつぶしたような表情とのギャップにおかしみがあり、演技派の面目躍如でした。物語の始まりと終わりの“主役”でもあり、存在に重みがありました。

 桂文枝さんが演じたのは、蚤とりを認めている幕府の老中。権勢をふるう老練さと、権力者ゆえの孤独を味わい深く表現しています。失脚直前に寛之進に本心を明かすシーンは有数の見所となっています。

 脚本は鶴橋監督自らが担当。小松重男さんの短編時代小説3編を一つにする形でまとめたそうです。“いとをかし”な面々の小気味よいやりとりは、作品に独特のリズムを与えています。権力におもねらない庶民への優しいまなざしも感じられます。

 映倫規定の「R15+」(15歳未満は観覧禁止)指定映画であり、官能的なシーンも少なからずあります。にもかかわらず、全編にわたり、初夏の心地よい風が吹き抜けるような爽やかさを感じました。これはなんと言っても、寛之進のすがすがしい生き方によるものなのですが、一癖も二癖もある登場人物たちのだれもが人間くさく、愛きょうがあり、背中を押してあげたくなるのも背景にあるような気がします。

 こんな映画ができるなんて、日本人として誇らしい――。見終わった後、そう思いました。

 T・ジョイ博多(福岡市博多区)など全国の上映館についてはこちら(http://nomitori.jp/)をご覧ください。

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